観光先進国を目指して
マスツーリズムは受動的 自らマーケット創り出せ
──著書「観光先進国をめざして」がこのほど発刊された。執筆した動機は。
「これまでオイルショックがあったり、バブル崩壊があったり、普賢岳の噴火など天変地異があったり、いろいろな出来事が起きたが、そういう46年間を見てきて、書かなければいけないことがたくさんあると思った。観光に関していろいろな本が出ているが、多くはロジック型だ。私は学術書を書くつもりはなかった。自分の体験、経験から類推して、ツーリズムはこうあるべきだという持論を書いた。次なる時代の人が読んで、俺もこれだったらできるな、こういうことをやらなければいけない、などと思ってもらいたい」
──サブタイトルに「日本のツーリズム産業の果たすべき役割」とある。ツーリズム産業の役割とは。
「ツーリズム産業は、一見お客さまを創るというよりもお客さまがそこにいるから仕事をするという受け身的な産業に思われがちだ。訪日インバウンドが拡大しているが、施策として大きな効果があったものはビザの解禁だけ。インバウンドを増やすためにツーリズム産業が積極的に世界中から人を連れてきたことがあるのかというと、ない。ツーリズム産業が果たすべき役割は自らマーケットを創り出すことだ。国内旅行では元々個々に同日に開催していた『東北三大祭り』の日を調整しすべてのお祭りを見ることができる環境を創ってきたが、そういうマーケットを創り出す、あるいは新しい形をイノベーションしていくことには消極的だ」
──訪日インバウンドの拡大に向けて誰が何をするべきなのか。
「国がやるべきことは、ハードのインフラ整備だ。これは地域ではできない。港湾や空港の整備、規制緩和などをまずやってほしい。ビザの解禁もまだ十分に進んでいるとは言えない」
「政府観光局は、セールスプロモーションをさらに工夫してほしい。2030年には18億人が世界を旅することになる。これから各国による18億人の争奪戦に入るが、日本をPRする起爆剤になるのが『東京2020オリンピック』だ。オリンピック後に訪日の勢いが落ちないよう、オリンピックをホップ、ステップのジャンプ台にしなければならない」
──一方、民間企業がやるべきことは
「地域の中に入って、地域の宝を磨く作業をすることだ。そして、各地域の行政とどう連携をとるかが重要になる。地方自治体は今、観光振興に熱心だ。地域の宝物はたくさんあるので、ストーリー作りをしっかりやってほしい」
「消費者の意識改革も必要だ。ロングステイや働き方・休み方改革にも力点を置きながら、新しい旅のスタイルを提案していかなければならない」
──旅館に要望することは。
「宿泊形態にもっとバラエティさがほしい。長期滞在の需要はまだ少ないので、まずは2泊、3泊の中期滞在の仕組みを考えるべきだ。1泊2食だけでいいという発想では旅館の未来はない。1泊2食ということはその旅館の食事を食べて帰るだけなので、同じお金を使うなら専門の店に行って食べた方がいいということになってしまう」
「旅人はそのまちの文化を知りたいと思って訪れる。だから、魅力あるまちづくりが重要になる。それは、一つの旅館ではできないから、地域密着と地域連携が最も大事だ」
「畳の部屋もいいのだが、老人は布団からなかなか起きられない。ベッドで寝た方が楽だ。高齢者や身体障害者を含めすべての人がスムーズに旅行できるよう施設や道路などのハードを整備しなさいという『アクセシビリティ』の発想が国連世界観光機関から出されている。その発想で、自分の旅館や地域を見直してみると良い」
──旅行業者に求めることは何か。
「自らマーケットを開発して、そのマーケットに合った旅館、地域を探して、売り込むというクリエイティブな仕事になってもらいたい。お客さまから何かを頼まれても、『こういう旅行はいかがですか』と提案しなくてはいけない。日本旅行業協会(JATA)では『旅行業の企画力、提案力、斡旋力、添乗力を発揮しよう』と言っている。なかでも企画力と提案力がなければ旅行業ではない。それは単なる手配屋、代理店だ」
──地域観光振興のまとめ役となるDMO。その推進にあたって課題は。
「NPOではなくて、企業や社団・財団法人にして組織をしっかり作ってほしい。そのなかで収支を見る。DMOのMはマーケティング&マネージメントだが、マーケティングをやって終わりで、マネージメントまで行き着いていないところが多い。みんなで集まれば何かイベントができるかな、というような、ややもすると仲良しクラブ的なところもある。それはDMOとは言わない。ヒト、モノ、カネをセットで動かさなければ、本当のマネージメントにはならない。意思決定をしっかりと図れる体制、組織作りを進めてほしい」
【たがわ・ひろみ】
【聞き手・板津昌義】